非上場会社が配当金を支給しても節税には意味がない⁉ デメリットを詳しく説明致します!
先日、顧問先(非上場会社)からこんな相談を受けました。「弊社もそろそろ節税対策の一環として、役員報酬を下げて配当金の支給を始めてみようかな⁉」しかし非上場会社が配当金を支給してもメリットは基本ありません。なぜ配当金を支給すべきではないかについて説明致しますので、節税対策の一つとして配当金の支給を検討している経営者の方がいらっしゃいましたら、ご一読頂けたら幸いです。
目次
1. 非上場株式の配当所得に対する課税
⑴所得税
上場会社に該当しない会社が支払った配当は、上場株式の配当(持株割合が3%以上の株主を除きます。)のように20.315%(所得税及び復興特別所得税:15.315%+住民税:5%)が天引きされて課税が完了するのではなく、個人の所得の計算上 総合課税で課税されるため結局は給与所得や事業所得等の他の所得と合算して所得税が課されることとなります。所得税は超過累進税率が適用されるため、高額な配当金を支払った場合には負担すべき税額は増えてしまいます。
役員報酬が該当する給与所得はみなし経費として給与所得控除額を所得の計算上引くことができます。一方 配当所得は負債の利子を引くことができますが給与所得控除額と比べて僅かであるため、同額の役員報酬と配当金額を支払った場合には圧倒的に給与所得より配当所得の方が大きくなります。
このことから役員報酬の支払いを下げた分だけ同額を配当金として支払うと、個人が負担する所得税・住民税は高くなってしまいます。
【事例】役員報酬10,000,000円を5,000,000円に減額し、その分配当金として5,000,000円を支払った場合の所得金額を計算します。
<変更前>
役員報酬10,000,000円の給与所得控除額は1,950,000円ですので、給与所得は差額の8,050,000円(10,000,000円-1,950,000円)となります。
<変更後>
役員報酬5,000,000円の給与所得控除後の給与所得は3,560,000円(5,000,000円÷4×3.2-440,000円)となり、配当所得は株式を購入するために借り入れた負債が無い場合には配当の収入金額がそのまま配当所得になるため5,000,000円となります。
よって給与所得と配当所得の合計は8,560,000円(5,000,000円+3,560,000)となり、変更前の所得金額と比べて510,000円(8,560,000円-8,050,000円)も所得が増えたことになります。その分、個人が負担する所得税・住民税は高くなります。
⑵少額配当
非上場株式の配当は所得税及び復興特別所得税として20.42%が源泉徴収されますが、1銘柄につき10万円(計算期間が1年未満の場合には「10万円×配当計算期間÷12ヵ月」)以下であれば所得税の確定申告は申告不要となります。
※住民税は非上場株式の配当の支払い時に源泉徴収されていないため、少額配当に該当したとしても住民税の申告は必要ですのでご注意ください。
確かに少額配当の範囲内である10万円以内の配当でしたら役員報酬の支給に比べて税負担が少なくなる可能性はありますが、配当金を支給する場合には株主総会議事録を作成したりする必要があり事務手続きが増えることを考慮すると選択するメリットは少ないと考えます。
2. 非上場会社が配当を支払うことのデメリット
⑴経費になりません
利益又は剰余金の分配は資本等取引に該当するため、非上場会社が配当金を支払ったとしても費用計上をすることはできません。一方で役員報酬は定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のどれかに該当した場合には会社の費用に計上できます。したがって役員報酬の支払いに変えて、配当金を支払ってしまうと納めるべき税金が逆に高くなってしまいます。
個人においても配当金を受け取ると配当所得として所得税等が課税されるます。法人と個人の税負担の合計額が役員報酬を支払っていた時よりも多くなってしまうため、配当金の支給は望ましくない選択であると言うことができます。
※以前弊所のブログで役員報酬の定期同額給与について説明しましたので、役員報酬について詳しく知りたい方は下記のブログもお読み頂けたら幸いです。
⑵株価が上昇してしまいます
非上場会社が配当を支払うことでその会社の株価(以下「取引相場のない株式」と言います。)が高くなり事業承継を行う際に後継者に株式を移すことが困難になるというデメリットがあります。取引相場のない株式を評価する際、類似業種比準価額も用いて計算します。
その類似業種比準価額はその会社の配当金額・利益金額・純資産価額を加味して算出しますが、役員報酬に変えて配当金を支払うことで配当金額及び利益金額を上昇することに繋がり、結果その会社の株価が高くなってしまいます。
3. 上場会社の場合
上記1で説明致しました通り、上場株式の配当は20.315%で天引きされ課税を完了することは可能です(申告不要)。しかしこちらも制約があります。持株割合が3%以上の場合には、非上場株式の配当と同様に総合課税で所得税を計算する必要があり申告不要を選択できず確定申告を行う必要があります。また株式の譲渡損失と配当所得を損益通算ができる申告分離も選択できませんのでご注意ください。
4. 配当を支払うことのメリット
先ほどまで配当金を支払うことのデメリットばかりをお伝えしましたが、配当金を受け取る個人にとってはメリットもあります。どのような利点があるかを説明致します。
⑴配当控除が使えます
配当金を受け取った方が所得税の確定申告をする際に、配当所得につき総合課税を選択すると配当控除を適用することが可能です。配当控除は納付すべき所得税額から配当金額の10%(配当所得も含めた課税総所得金額が1,000万円を超える場合には、その超える部分に対しては5%)を控除することが可能です。
配当金を申告不要にするか配当控除を適用する総合課税に選択するかは、申告を行う個人の所得金額によって有利不利が変わるためシミュレーションを行う必要があります。
⑵社会保険料がかかりません
受け取った配当金額には社会保険料はかかりません。一方、役員報酬を支払う場合には健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料がかかってしまいます。社会保険料の負担は大きいため役員報酬を下げて配当金を支払うことで、手取り額が増えることが期待できます。
【参考】役員報酬が月額1,000,000円の方の社会保険料(40歳以上で東京都の会社勤務の方)
社会保険料 | 金額 |
健康保険料 | 49,000円 |
介護保険料 | 8,918円 |
厚生年金保険料 | 59,475円 |
合計 | 117,393円 |
5. まとめ
配当金の支給は個人の税負担や社会保険料の支払いが減るというメリットもありますが、法人の経費にならないという大きなデメリットがあるため顧問先の節税対策にはお勧めしていません。配当金の支給は節税対策で利用するよりは純粋に株主への富の分配の観点で実施した方が望ましいと考えています。
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